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札幌地方裁判所 昭和57年(ワ)5074号 判決 1984年5月22日

原告 鐘下伊太郎

右訴訟代理人弁護士 田中正人

被告 東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 松多昭三

右訴訟代理人弁護士 田中登

主文

被告は原告に対し、金五二三万五四二七円と内金四五八万五四二七円に対する昭和五四年三月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

この判決は一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金九〇六万三七二二円と内金八二六万三七二二円に対する昭和五四年三月二九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (事故の発生)

昭和四九年一一月二六日午後四時ころ、札幌市中央区南四条西四丁目先通称ススキノ交差点(以下本件交差点という)において、訴外布施正紀運転の普通乗用自動車(札三三さ二五八一、以下甲車という)と原告運転の原動機付自転車(以下乙車という)が衝突し、原告はこれにより負傷した。

2  (判決の確定)

原告は、甲車の所有者である訴外島田隆と甲車を運転した訴外布施の両名を被告として札幌地方裁判所に損害賠償を求める訴を提起し(同裁判所昭和五五年(ワ)第五〇三三号、以下前訴という)、同裁判所は昭和五六年九月二九日、訴外島田らは原告に対し、各自金九〇六万三七二二円及び内金八二六万三七二二円に対する昭和五四年三月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払えとの判決を言渡し、右判決は確定した。

3  (保険契約)

訴外島田は、昭和四九年、被告との間で、甲車について保険金額を対人賠償二〇〇〇万円、対物賠償一五〇万円とする自動車保険契約(以下本件保険契約という)を締結した。

4  (被告の責任)

(一) 被告は、本件保険契約に基づき直接原告に対し保険金を支払う義務がある。

(二) 仮にそうでないとしても、原告は訴外島田に対し、2のとおり損害賠償請求権を有し、訴外島田は被告に対し保険金請求権を有するところ、訴外島田には資力がないので、原告は、民法四二三条により訴外島田の保険金請求権を代位行使する。

5  (結論)

よって、原告は被告に対し、保険契約の履行として金九〇六万三七二二円と内金八二六万三七二二円に対する昭和五四年三月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は不知。

3  同3の事実は認める。

4  同4の主張は争う。

三  抗弁

1  主たる主張(免責)

本件保険契約に適用される保険約款は、昭和四八年九月改訂の自動車保険普通保険約款であるが、右約款第三章(一般条項)第一二条は、保険契約者または被保険者に対し、損害賠償の訴訟を提起されたときは遅滞なく保険会社に通知することを義務付けており、右義務違反の効果として同第一三条は、保険契約者または被保険者が正当な理由なく、右通知を怠ったときは保険金を支払わない旨定めている。

しかるに訴外島田、同布施の両名は、原告から前訴を提起されながら、正当な理由がないのに被告に何ら通知をしなかったばかりでなく、訴外島田においては、適式な呼出を受けながら前訴の口頭弁論期日に全く出頭せず、訴外布施においては、昭和五六年二月一七日の口頭弁論期日に出頭したものの弁論をなさず、その後の口頭弁論期日に出頭せず、また両名とも答弁書その他の準備書面も提出しなかったため、いわゆる欠席判決を受け、更にそのままこれを確定させたものである。したがって訴外島田は、前記約款の条項により被告に対し保険金を請求しえないものであり、訴外島田の保険金請求権を前提とする原告の本訴請求は失当である。

2  予備的主張(減額)

(一) 前記保険約款第三章第一二条は、保険契約者または被保険者は、損害賠償の請求を受けた場合は、あらかじめ保険会社の承認をえないで、請求の全部または一部を承認してはならない旨定めており、これに違反した場合には、同第一三条において、損害賠償責任がないと認められる額を差引いて保険金を支払う旨定めている。しかるに訴外島田は、前訴において後述するとおり当然損害額等を争いうる余地があったにもかかわらず、前項のとおり欠席判決を受け、これをそのまま確定させ、結果として被告に無断で原告の請求の大部分を承認したのと同様の事態を招いたものである。したがって、本訴においては、原告の損害額について被告の反論、反証等が許されたうえで、適正な損害額を明らかにし、その額の限度に保険金額を減額すべきである。

(二) 本件事故は、本件交差点を東方から北方に向かって右折する甲車と、同交差点を西方から東方に直進する乙車が衝突して発生したものであるが、乙車が右交差点に進入したときは信号は既に赤に変わっていた。したがって乙車を運転していた原告の過失は重大であり、過失相殺がなされるべきである。また後遺障害等についても前訴判決で認容した(すなわち原告が前訴において主張した)ものと、実際のものとは異なっており、証拠により認定しうる損害を算定すべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、約款の内容は不知、その主張は争う。

2  抗弁1のうち、(一)の主張は争う。本件は確定判決が存するものであり、無断承認の事例ではない。同(二)の事実のうち、本件事故が右折車と直進車の衝突によるものであることは認めるが、その余は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  (本件事故の発生、保険契約の存在)

請求原因1、3の各事実は当事者間に争いがない。

二  (判決の確定)

《証拠省略》によれば、原告は、訴外島田、同布施の両名を被告として、札幌地方裁判所に、本件事故による損害賠償として金一一四五万六二二二円と内金一〇五八万六二二二円に対する昭和五四年三月二九日以降の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める前訴(昭和五五年(ワ)第五〇五三号事件)を提起したこと、これに対し訴外島田は適式な呼出を受けながら口頭弁論期日に全く出頭せず、訴外布施は昭和五六年二月一七日の第二回口頭弁論期日に出頭したが弁論をなさず、その後は適式の呼出を受けながら口頭弁論期日に出頭せず、また両名とも答弁書その他の準備書面も提出しなかったこと、そこで同裁判所は、同年七月一四日の第六回口頭弁論期日において弁論を終結したうえ、同年九月二九日、訴外人両名は原告主張事実を明らかに争わないものと認めて民事訴訟法一四〇条を適用し、原告主張事実を前提に、訴外人両名に対し金九〇六万三七二二円及び内金八二六万三七二二円に対する昭和五四年三月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を命ずる判決を言渡し、右判決はいずれからも控訴がなく確定したこと、以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

三  (原告の被告に対する請求について)

原告は、被保険者たる訴外島田に対し前訴判決が確定した以上、被害者たる原告は本件保険契約に基づき直接被告に対して保険金を請求できるものと解すべきであると主張するが、その根拠とするところは明らかでないうえ、《証拠省略》によれば、本件保険契約が適用される保険約款は昭和四八年九月改訂の自動車保険普通保険約款であるが、右約款には被害者が保険会社に直接保険金を請求できることを定めた条項は存しないことが認められるのであり、原告の右主張は採用し難い。

次に原告は、債権者代位権(民法四二三条)に基づく請求を主張するところ、原告の訴外島田に対する債権の存在は前記二で認定したところから明らかであり、《証拠省略》によれば、訴外島田は前訴判決で支払を命じられた金員を支払うに足る格別の資産もないことが窺われるから、原告は、本件保険契約に基づく訴外島田の被告に対する保険金請求権を代位行使することができるものと解され、原告の右主張は理由がある。

四  (被告の主張について)

1  被告は、訴外島田は原告から前訴を提起されながらこれを正当な理由がなく被告に通知しなかったので、保険約款上、訴外島田は被告に保険金を請求しえない旨主張する。しかして本件保険契約が適用される昭和四八年九月改訂の自動車保険普通保険約款(以下本件約款という)の第三章(一般条項)一二条七号には、事故発生時の保険契約者または被保険者の義務として、訴訟が提起されたときは遅滞なく保険会社に通知すべきことが規定されており、同一三条一項では、正当な理由がなく右義務に違反した場合には保険会社は損害を填補しない旨定められているところ、訴外島田が前訴時において訴訟を提起されたことを被告会社に通知しなかったことは、《証拠省略》により明らかである。

2  そこで前訴判決確定に至るまでの経緯についてみるに、《証拠省略》によると、訴外島田は、本件事故発生後、原告側から任意保険の手続をして欲しい旨求められたが、訴外布施から聞いた事故の態様からみて責任はないものと考え、当初右手続をとることに難色を示したものの、原告が経済的に苦しい状態にあることを知って任意保険の手続をとることにし、被告会社に本件事故発生の報告をしたこと、そのため被告会社の職員は、診断書等を調査したり、訴外布施や原告に面談したりして、損害の程度や事故の態様による責任の割合などを査定しようとしたが、一方では原告の治療が長期に及び、他方では事故の態様について訴外布施と原告との間で主張のくい違いがあり、損害の査定が遅れたこと、昭和五二年一一月に至り、訴外布施の刑事処分が不起訴と判明したこともあって、被告会社は、本件事故についての原告の過失割合を五五パーセントと判断したこと、原告の症状は昭和五四年三月末ころには固定し、そのころ後遺障害診断書も被告会社に提出されたが、被告会社は、原告の過失割合からみて、任意保険で負担すべきものは、昭和五〇年一二月一八日に支払った金三〇万円と、国民健康保険からの求償分金八〇万〇二一一円(昭和五三年二月九日支払)の合計金一一〇万〇二一一円をもって足り、その余は原告が強制保険に被害者請求すればよいと考え、昭和五四年七月、示談未成立のまま本件を支払完了として処理したこと、原告は、被告会社の右処理に不満であったため、市役所や弁護士会の法律相談を経て、結局前訴を提起したのであるが、訴外島田は、右訴訟は本来事故を起こした訴外布施が解決すべきものであり、また原告の請求が本件保険契約の保険金額の範囲内であったため最終的には被告会社で解決してくれるものと考え、本件約款上の前記通知義務の条項を知らなかったこともあって、前訴に応訴せず、そのまま判決を確定させるに至ったこと、以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

3  右認定したところによれば、訴外島田は前訴時において、本件約款上の前記通知義務の存在を知らず、これがため、被告に前訴提起の事実を通知しなかったものと解せられるが、約款の条項を知らなかったという一事のみをもってしては義務違反に正当な理由があったということはできない。そこで更に訴訟の通知を義務付けた約款の趣旨について考えてみるに、右は訴訟を提起された被保険者が、いずれは保険金でまかなえるという安易な考えから、訴訟にまともに応ぜず、結果として不適正な損害賠償額を命ずる判決を甘受し、その判決で命ぜられた金額を保険会社に請求するというのでは、実損害を填補するという自動車保険の制度の本旨に反し、保険会社としても不当な不利益を受け、あるいは被保険者と保険会社との間で無用の紛争が起ることもあるから、これらの弊害を避けるため、訴訟が提起されたときは当該訴訟手続において適正な賠償額が定められるよう保険会社も直接、間接に関与できる途を残すことを目的にあらかじめ通知を義務付けたものと解される。本件約款第三章一二条六号は、保険会社の承認をえないで被害者からの請求を承認しないことを義務付けているが、これも基本的には同じ趣旨から出たものといえる。したがって、訴訟を提起された被保険者が、弁護士を選任する等して真摯に応訴し、なすべき主張をなし提出すべき証拠を提出して、充分審理を受けたうえで判決がなされた場合のように、適正な賠償額が査定されたという実質的な保障があれば、保険会社としても何ら不利益はない訳であり、このような場合であっても、通知がなかったことをもって保険会社が責任を免れるとすることは、保険会社に不当な利益を与える反面、被保険者に苛酷な結果をもたらすことになって妥当ではない。本件においては、前記のように訴外島田は全く応訴せず、いわゆる欠席判決を受けてこれを確定させているのであるから、右のような場合にあたるとはいい難い面があるのであるが、他面において前記認定のように、本件事故はある時点まで被告会社の事務手続にのっており、被告会社において損害査定の資料を収集し、原告に若干ではあるが保険金の支払をしている事例であり、被告会社において示談未成立にもかかわらず支払完了済として処理したことが原告をして前訴提起を余儀なくさせたことも考えあわせると、訴外島田が訴訟の通知をしなかったことをもって、被告会社の責任をすべて免れさせるのは相当でないと解される。

4  そうして本件約款第三章一三条二項においては、請求を無断で承認した場合は、損害賠償責任がないと認められる額を差引いて保険金を支払う旨定めているのであるが、前訴においていわゆる欠席判決を受けた訴外島田の行為は、請求を無断で承認した場合とその実質において異なるところはないとも解せられるから、本件も請求の無断承認の場合に準じて考えるのが相当であり、この場合には、あらためて原告の損害額を査定し、その範囲内において被告は保険金の支払義務を負うものと解するのが相当である。よって以下原告の損害について検討することとする。

五  (原告の損害)

1  原告の傷害等

《証拠省略》によれば、原告は、明治三六年九月九日生の男子であるが、本件事故によって頭部外傷、右大腿骨転子骨折、右下腿顆部骨折、腰部打撲、右足関節部打撲等の傷害を負い、昭和四九年一一月二六日から昭和五二年三月三日まで中村脳神経外科病院に、昭和五三年五月二四日から同年六月一五日まで北辰病院にそれぞれ入院し(入院日数合計八五二日)、昭和五二年四月一三日から昭和五三年一月一三日までは勤医協札幌病院に、同年三月二〇日から昭和五四年三月二九日までのうち前記入院期間を除く期間は北辰病院にそれぞれ通院し(通院実数三八七日)、その結果、昭和五四年三月二九日、右病院によって症状固定の診断を受けたこと、原告の後遺障害の主なものは右大腿骨々折の変形治癒によるもので、このため原告の右下肢は四センチメートル短縮したほか右股関節に運動障害を残し、また右下肢に圧痛や知覚異常もあって、原告はこのため症状固定後も病院に通院して温熱療法等の治療を受けていること、以上の事実を認めることができ右認定に反する証拠はない。

2  治療費

《証拠省略》によれば、原告の昭和五二年四月一二日までの治療は国民健康保険でなされ、この間の治療費総額は金三九三万八四八〇円であるが、原告は自己負担分として少くとも金九三万三〇二七円を支払い、それ以降は全額医療保護を受けていることが認められ、右自己負担分が原告の損害と解せられる。

3  文書料

《証拠省略》によれば、原告は診断書等の文書料として金二万二五〇〇円を支払ったものと認められる。

4  入院雑費

前記のとおり原告は合計八五二日入院しているのであるが、この間の入院雑費としては一日五〇〇円、合計金四二万六〇〇〇円と認めるのが相当である。

5  入院付添費

《証拠省略》によると、原告は中村脳神経外科病院入院中、昭和四九年一一月二六日から昭和五〇年六月三〇日までの二一七日間医師によって付添看護を要するとの判断を受け、原告の妻が病院に寝泊りして看護をしたことが認められ、右によれば、付添費は一日二五〇〇円としてその二一七日分である金五四万二五〇〇円が相当と認められる。

6  逸失利益

前記認定の事実によれば、原告は本件事故による後遺障害として、右下肢の四センチメートル短縮と右股関節の運動障害が存するところ、下肢短縮は後遺障害別等級表の一〇級に、股関節の運動障害は同表の一二級に該当するものと解されるので、後遺障害による労働能力喪失割合は三五パーセント程度と解される。しかして原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時、結核罹病後の身体であって定職はなかったが、妻と息子が経営する食堂の手伝をしていたことが認められるので、原告の年齢(症状固定時の昭和五四年三月二九日当時七五歳)からみて四年間の逸失利益を認めるべきところ、その基礎たる収入は昭和五四年度の六五歳以上の産業計全男子労働者の平均賃金額(二二三万一〇〇〇円)をもってするのが相当と解されるので、ライプニッツ方式をもって昭和五四年三月二九日当時の現価を算出すると次の算式により金二七六万八八五五円となる。

2231000×0.35×3.54595=2768855

7  慰藉料

前記認定の入院期間、通院実日数、後遺障害の内容、程度のほか原告の年齢(入通院が長期に及んだのは原告の年齢的要素も一因をなしていることは否定し難い。)等諸般の事情を勘案すると、原告が本件事故で受けた精神的苦痛を慰藉するには金四五〇万円をもってするのが相当と解される。

8  過失相殺

本件事故の発生日時、場所及び本件事故が本件交差点を右折中の甲車と同交差点を直進中の乙車の衝突事故であることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に《証拠省略》を総合すると、本件事故の発生した本件交差点は、いずれも幅員が広い南北方向の道路と東西方向の道路が直交する交差点で、自動車の交通量は極めて多いところであるが、甲車を運転して東西方向の道路を東より進行してきて、右交差点において北に向かって右折しようとした訴外布施は、青信号で右交差点に進入し、交差点中央付近で対向車両の途切れるのを待っていたところ、東西方向の信号が青から黄に変わったため東西方向の車両の動静を確認せず右折進行したところ、東西道路の西から東に向かって直進中の乙車を発見し、急制動の措置をとったがまにあわず、甲車の前部と乙車の前部が衝突したことが認められ、《証拠省略》中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない(原告は、本件事故は東西方向の信号が赤から青に変わった直後の事故である旨供述するが、本件交差点が極めて交通量の多いところであることからすると青に変わった直後に甲車が右折進行したものとは考え難い。)。被告は、乙車は赤信号で交差点に進入した旨主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、かえって右認定の事実によれば、乙車進入時の対面信号は青もしくは黄であると解すべきである(そのいずれであるかは判然としない。)。

右認定の事故態様に鑑みると、東西方向の直進車両の動静に注意せずに右折進行した訴外布施に過失があることは勿論であるが、原告にも右折車の動静を注視して進行しなかった過失があるものといわざるをえず、本件が原動機付自転車と普通乗用自動車の事故であることもあわせ考えると、原告の過失割合は三割と認めるのが相当である。

9  損害の填補

原告の損害は前記2ないし7の合計金九一九万二八八二円であるところ、過失相殺により訴外島田が負担すべき金額はその七割である金六四三万五〇一七円と認められ、これに前訴における弁護士費用(前訴において原告が弁護士に訴訟の遂行を委任したことは《証拠省略》により明らかであり、その弁護士費用は金六五万円が相当であると認められる。)を加算すると合計金七〇八万五〇一七円となる。

しかるところ、《証拠省略》によれば、原告は本件事故に関し自賠責保険から金一九九万円、被告から金一一〇万〇二一一円の給付を受けたことが認められるが、《証拠省略》によれば、自賠責保険の給付金の内金四四万〇四一〇円と被告からの給付金内金八〇万〇二一一円の合計金一二四万〇六二一円は、原告に過失が五五パーセントあることを前提としたうえでの、治療費の七割を負担した国民健康保険からの求償分であること及び原告が請求していない金員であることが認められるから、前認定の原告の損害額からこれを控除するのは相当でなく、したがって前記給付金から右を控除した残金一八四万九五九〇円をもって填補金額と解すべきである。そうすると原告の填補後の損害額は金五二三万五四二七円となり、原告は右金額と内金四五八万五四二七円に対する昭和五四年三月二九日(症状固定日)から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を請求したものということができる。

六  (結論)

以上によれば、前項で判断した原告の損害額は、前訴判決で確定した訴外島田の責任の範囲内であり、かつ、本件保険契約の保険金額の範囲内であることが明らかであるから、原告の本訴請求は、被告に対し金五二三万五四二七円と内金四五八万五四二七円に対する昭和五四年三月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大橋弘)

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